駅から程近い小さな店が、長い行列を生み出す理由。「岐州」という名の中華料理店は、岐阜の街の喧騒の中に静かに佇んでいる。その扉を開けば、そこには日常と非日常の境界が曖昧になる特別な空間が広がっている。
もちもちとした皮の中に秘められた肉汁は、一口噛めば小籠包のように口の中で弾ける。焼餃子一つに込められた店主の情熱と技術は、何度も食べログの「餃子百名店」に選ばれるほどの評価を得ている。その味わいを求めて、人々は雨の日も風の日も、時には一時間以上も列に並ぶのだ。
JR岐阜駅から北口を出て右手のペデストリアンデッキを進み、大通りを渡る。階段を下りて横の道を北へ、二つ目の十字路の右角。そこに、まるで隠れ家のように存在する「岐州」がある。店内に入ると、カウンター席9席と少数のテーブル席、合わせてわずか17席の小さな空間に、温かな灯りと食欲をそそる香りが満ちている。
店の看板メニューは440円の焼餃子。この街の食通たちの間では「あの餃子」と言えば、すぐに岐州のものを指すと言われるほどだ。皮は薄くもちもちとして、中の具材から溢れ出る肉汁は思わず目を閉じたくなるほどの旨味を放つ。一皿、また一皿と、気がつけば完食している自分に驚くこともある。
餃子と並んで絶賛されるのは770円のえび炒飯。パラパラとした米粒一つ一つが油の中で踊り、エビの風味が口いっぱいに広がる。「これ以上の炒飯にはまだ出会ったことがありません」と評価する常連客もいるほどだ。青菜炒めのニンニクの香りは疲れた心を癒し、炙りチャーシューの柔らかさは舌の上で優しく溶けていく。
店は毎日17時に開店するが、餃子が売り切れれば閉店する。定休日は火曜日。支払いは現金のみ。そんな古風なルールも、この店の味わいに惹かれる人々を遠ざけることはない。むしろ、日常の喧騒から離れた特別な時間を求めて、人々は足を運ぶのだ。
ある常連客は言う。「一時間半並んで、食事の時間はたった20分。でも、また来たいと思う」と。その言葉に、岐州という店の本質が凝縮されている。
時計を気にしながらも、肉汁が溢れる餃子を口に運ぶ瞬間、時間はゆっくりと流れ始める。隣のカウンターで同じ料理に見入る見知らぬ人との間に、言葉を交わさずとも確かな連帯感が生まれる。それは、美味しさを共有する静かな喜びかもしれない。
夜の帳が下りる岐阜の街で、小さな店から漂う餃子の香りは、今日も誰かの心に特別な記憶を刻んでいく。明日も、その次の日も、岐州の扉が開く限り、その味わいを求めて人々は集い続けるだろう。
駅前の喧騒を離れて一歩足を踏み入れれば、そこには17席の小宇宙が広がっている。皮の薄さと肉汁の豊かさが絶妙に調和した焼餃子と、パラパラの食感が絶品のえび炒飯。名鉄・JR岐阜駅から徒歩3分、餃子百名店に選ばれた「岐州」で、行列を作ってでも味わいたい本物の中華の味を堪能しよう。
文・一順二(にのまえ じゅんじ)

