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滝見の湯

静かに佇む山あいの里に、ひっそりと息づく秘湯がある。長野県南佐久郡南相木村、その名も「滝見の湯」。名前の通り、ここは滝を眺めながら湯に浸かるという、日本人が古くから愛してきた贅沢を今に伝える場所だ。

山深い村の小道を進むと、突如として現れる洗練された和風モダンの建物。それが滝見の湯だ。一見すると控えめな佇まいながら、その内側には豊かな温泉体験が待ち受けている。

館内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、玄関脇に投影された犬ころの滝の動画。これから自分が体験する至福の時間への期待が、じわりと胸に広がる。受付で入浴料を支払い、脱衣所へと向かう。大人500円という手頃な価格も、旅人の心を和ませる。

この温泉の魅力は何と言っても、直坂温泉を源泉とする単純温泉(低張性弱アルカリ性低温泉)の湯質にある。源泉温度28℃の湯は、適温に加熱されて各浴槽へと送られる。肌にまとわりつくような柔らかな感触の湯は、地元では「美人の湯」とも称され、湯冷めしにくいという評判だ。神経痛、筋肉痛、関節痛から冷え性、疲労回復まで、その効能は多岐にわたり、日々の疲れを優しく癒してくれる。

浴室に立つと、そこには多彩な入浴スタイルが広がっている。内湯にはジェットバス、泡風呂、電気風呂、打たせ湯など、温泉を様々な形で楽しめる設備が整っている。サウナ愛好家には嬉しい高温サウナとミストサウナ、そして水風呂も完備。近年では露天スペースに八角形のバレルサウナが新設され、セルフロウリュも可能となり、サウナ体験の質がさらに向上した。

しかし、この温泉の真髄は何と言っても露天風呂だろう。湯船に身を沈め、目を上げると、そこには南相木村が誇る七つの滝の一つ、犬ころの滝の姿。水しぶきを上げながら岩肌を流れ落ちる滝の音が、耳を心地よく打つ。浴室は男女週替わりで入れ替わるため、訪れる週によって異なる角度から滝を眺めることができる。「露天風呂からの滝の見え方は期待していたほどではない」という声もあるが、それもまた自然の一部、木々の緑や岩肌との調和を楽しむのが滝見の湯の醍醐味だ。

湯上がりには、広々とした休憩スペースでゆっくりと汗を引かせる。ここはフリーWi-Fiも完備され、現代の旅人にとっての安らぎの場となっている。そして、食事処では地元の誇りである相木そばや、岩魚の唐揚げとのセットなど、南相木村の豊かな恵みを味わうことができる。地元の食材が織りなす素朴ながら深い味わいは、温泉とともに記憶に残る体験となるだろう。

滝見の湯の魅力は、温泉施設そのものにとどまらない。周辺には長野県の名勝に指定されているおみかの滝や、大小の美しい滝が連続する千ヶ淵の滝など、複数の滝が点在している。立岩湖では釣りを楽しむことができ、冬にはワカサギ釣りや珍しいアイスバブルの観測も可能だ。標高1400mに位置する立原高原や天狗山でのハイキングも、訪れる人々の心を豊かにしてくれる。

この地を訪れるなら、週末の滞在もおすすめだ。周辺のペンション森のふぁみりぃやシャトレーゼホテル、立岩湖のほとりにある立岩湖交流センター立岩荘などの宿泊施設を利用すれば、南相木村の自然をより深く体験することができるだろう。

休業日は毎週火曜日(祝日の場合は営業し、翌日休業)、年末年始(12月31日と1月1日)。訪れる際には、事前に公式ウェブサイトや電話で最新情報を確認しておくと良いだろう。

アクセスは、JR小海線小海駅から南相木村村営バスで約20分、温泉前バス停下車すぐ。車なら中部横断道・八千穂高原ICから約15km(約25分)、駐車場は普通車100台を収容できる第一駐車場と、混雑時に利用可能な第二駐車場(40台)が無料で利用できる。

滝見の湯は、都会の喧騒から離れ、四季折々の自然に囲まれながら心身を癒やすことができる場所だ。綺麗な施設、心地よい湯質、雄大な自然、そして地元の味。これらすべてが融合した体験が、訪れる人々を待っている。忙しない日常を忘れ、自然の時間の流れに身を委ねる。そんな贅沢な時間を、滝見の湯は私たちに与えてくれるのだ。

文・一順二(にのまえ じゅんじ)

一順二(にのまえじゅんじ)
猫のロキ
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